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孤高のポップシンガー

何か形容矛盾だよね。孤高のポップシンガー。ポップスなのに孤高って。要は世捨て人みたいなポップシンガー。思い当たる人はすぐに思い当たると思う。オザケンこと小沢健二だ。

90年代初頭から半ばにかけて、最も成功したシンガー・ソングライターの一人だった。しかし、彼は90年代後半、忽然と、音楽シーンの表舞台から姿を消す。ときどき思い出したようにCDは出ている。しかし、90年代の売れ線からは明らかに距離を置いた、まったくマイペースな活動になってしまっている。最新作の『毎日の環境学: Ecology Of Everyday Life』(2006)にいたっては、歌うことも放棄してしまったインストアルバムだ。ファンの間では話題にはなったが、セールス的には90年代に及ぶべくもないのは言うまでもない。

何があったのだろう。

もともと彼は、小山田圭吾(コーネリアス)と一緒に80年代の終わりからフリッパーズ・ギターというバンドをやっていた。今となっては伝説的なバンドだ。当時は小生意気なガキんちょのくせに音楽的センスは抜群だという風な、一種の鬼っ子的な見方をされていた。いろいろよくない評判が活動の真っ盛りのうちから入ってきていた。音楽的には当時の日本のポップス界にあって(J-popなどという言い方はまだなかった)突き抜けてセンスがよくって、洋楽テイストな邦楽ポップスという意味で、洋楽ファンも一目置いていた。しかしそれが91年、たった3枚のアルバムを残して、突然解散してしまう。小沢も小山田も、それぞれソロアーティストとしてスタートする。

フリッパーズ:ギターの解散もかなり衝撃的だった。だけどソロの小沢健二の、静かな隠遁も、同じくらい衝撃だ。あれだけの成功を収めたミュージシャンがなぜ?という疑問は、やはりぬぐえない。フリッパーズ解散のときも、小沢(たち)は何も語らなかったが、この静かなる隠棲も謎のままである。

華やかな活動ではあったが、小沢の歌詞は(しばしば指摘されてきたけれど)、思いがけない赤裸々なフレーズに出会ったりする一方で、時に難解でレトリカルで韜晦に満ちたものも多い。東大の英文科卒というのは理由にはならないだろうけど、ポップス界にあって、まちがいなく不必要なまでにエリートだった。

しかし、彼の音楽は、よかった。本当に。吹っ切れた感じの馬鹿明るさがあった。(その背景を探るのは、きっと骨の折れる作業なのだが。)抜群の突き抜けた明るさの作曲センスと、そこから仄見えるダークな心象。このバランスは、90年代初頭の(ミリオンセールスを連発した)巨大ビジネスとなった音楽界にあって、ある意味で、ひとつの誠実さでもあった。彼が隠遁生活に入ってしまった今でも、それは変わりない。

残念なことがひとつ。実は小沢はアルバムに入っていない、シングルだけで発表した楽曲に傑作が非常に多いのだけれど、それをコンピレートしたアルバムが1枚だけしかないのだ。5年前の『刹那』。しかし、これは、アルバムでは聞けないシングル曲を集めたアルバムとしてファンには期待されながら、発売延期を繰り返し、結果的には、かなり不完全なコンピレーションアルバムとして発売された。そこからこぼれた作品にもいいものが多い。「戦場のボーイズ・ライフ」とか「恋しくて」とか。『刹那』は収録時間が確か45分くらいで、現在のCDの収録時間をはるかに下回っている。かつては70分くらいだったCDも、今では80分ちかいもの出てくるようになった。収録できないわけではない。小沢があえて、入れなかったのだ。彼は過去の自分を否定しようとしていたのだろうか。

世捨て人になってもいい。でも、過去の作品を葬り去ることはしないでほしい。切に願う。

100パーセントありえないことなんだけど、そしてそれが実現しても期待はずれになるだろうなとは思いつつも、万が一フリッパーズが再結成なんてことになったら、私は、すべての仕事を捨て去ってライブに駆けつけてしまうと思う。そういうファンは大勢いるはず。そして、間違いなく、オザケン単独のライブを望んでいるファンも。

彼の年齢は、私の一つ下。またまだ隠棲を決め込む年でもない、と、世俗的な欲求にどっぷり浸っている私などは思ってしまうのだけれど。

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