今、映画監督の新藤兼人と市川崑について調べている。二人とも90歳を越えたいまでも現役として仕事を続けている。ひたすら感服するのみだ。
先日、NHKハイビジョンで、ハイビジョン特集「新藤兼人95歳 人生との格闘果てず」ってのをやってた(1月28日)。95歳にしてなお新作に取り組む日々のドキュメンタリー。白内障で片目が利かないらしい。しかも、足腰がほとんど立たなくなっている。それでも映画を撮る。しかも、全編ロケの新作を。
いや、実際に映像で見ても信じられない光景だった。真夏のロケって。昨年夏って、記録的な猛暑だったでしょ? それでも、映画、撮る? 95歳が? うーん。
市川だって、新藤に次ぐご老体だ。それでも一昨年、自ら旧作『犬神家の一族』をリメイクしたのは記憶に新しい。
おいおい、である。
考えてみれば対照的な二人、である。
市川は、とにかく作品の幅がひたすら広い。これは前にも書いたけど。われわれの世代だと、70年代後半の金田一耕介シリーズの印象が強いが、文芸大作も堅実にこなすし、ユーモア路線もいける。アニメーター出身ってこともあって、一番最初のキャリアは戦争中の人形劇映画『娘道成寺』だったりする。ある世代には大ヒットした記録映画『東京オリンピック』(65年)が印象的だったりするのだろうな。15年位前にはキャッチーな『黒い十人の女』(61年)が大々的に再評価されたことおあったっけ。どんなジャンルでも堅実に仕事ができる、職人でありながら、映像への徹底したこだわりが、どの作品にも見て取れる。酔わせる陰影と色彩の使い手だと思う。
一方の新藤は、作品数は多いが、テーマ的には一貫している。大手の資本に拠らない、独立プロを基盤で自由な映画作りを追究できたというのが大きいのだろけど。社会派路線がひとつの大きな柱となっているのは、独立プロで活躍する最大のゆえんなのだろうが、実は、新藤のもう一つの柱として、人間の生きる能力の根源を「性」に求めた作品群があるのを忘れてはならないだろう。90歳過ぎてもこのテーマで作品が取れてしまうのが、本当にすごい。ていうかエロ爺? もちろんこれはほめ言葉。
返す返す、対照的な二人だが、もちろん、接点はある。脚本家として新藤は何本か市川作品にかかわっている。あと、共通点としては、徹底した平和主義者だということ。新藤の映画界への最大の貢献のひとつに、戦後の早い段階で反戦映画に取り組んだということがあるが、市川もそれは同じである。新藤の原水爆へのこだわりは広島出身者としては当然なのかもしれないが、『原爆の子』(52)や『第五福竜丸』(59)など、今見てもまったく色あせない反戦映画だ。市川にも代表作『ビルマの竪琴』(56,85)が有名だが、大岡昇平原作の『野火』なんていう、大手資本の大映で撮ったとは思えない徹底的な実験的な反戦映画もある。『ビルマ』の原作へのほれ込みようは、この映画を撮るために所属会社を移籍したというエピソードが物語っている。
現在、日本映画界最高齢のこの二人について調べることになったのは、まったくの偶然。それぞれ別の仕事の中でのこと。でも、この偶然にはちょっと感謝している。当たり前だが、調べれば調べるほど面白いのだ。
この冬、ずっと読んでいるのは、『市川崑の映画たち』という、94年に出たロングインタビュー。600ページにも及ぶ。これは、至福である。もちろん、鑑賞した映画のところを重点的に読むという読み方だけど、見てない映画も、「ああ、見てみたい」と思わせる本である。
願わくば100歳になっても映画を撮ってもらいたいな。周りは大変だろうけど。そのくらいのわがままをしてもいいくらい、映画界に貢献した二人だよ。
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